2. AMBIT連続シンポジウム(京都開催)
以下はシンポジウムの報告です。
シンポジウム 「こころが繋ぐ子ども支援の輪~多職種協働を支えるアンビッドの実践~
話題提供①
「地域の子ども家庭支援担当職員の立場から」 中沼早苗(門真市子ども部家庭支援課 家庭児童相談センター)
【感想】報告の際には、児相が動きのとれないときに子ども家庭相談員の存在は大きい(子どもにも親にもアウトリーチで関われる立場にあり、他の行政機関との連携も撮りやすい)と感じたが、のちのフューゲル先生のコメントは、「家に帰るのか、帰らないのかに終始しているが、子どもに家に帰りたくないというのはどんな感じなのか?」と聞くとよかったし、言葉にしづらいのならば、人形や描画を使ってもよかったのでは・・・だった。確かにその観点が抜けていた(発表者もフロアも)と感じた。
門真市では子ども家庭支援担当職員(臨床心理士)が多数雇用されている。法令・慣例では、子どもを支援する上で支援対象となる仕事は分かれているが、実際には機能と生活が重なり合っている。どう自分の仕事を保ち連携していくのかに関わり、要保護児童対策地域協議会での要保護児童のケース(小学生 架空事例)が取り上げられた。母子家庭で虐待のために一時保護をされた経緯があるケースである。あるときその女児が「家に帰りたくない」と学校で言い出した。学校は児相に相談したが、児相は「子ども家庭相談員に相談するよう」と動いてくれず。子ども家庭相談員が学校に訪れ、子どもや教師の話をきく。相談員は措置権のない立場で話を聞く不安を抱えながら、「家に帰したほうがよいのか、帰さないほうがよいのか」を考え続け、最終的には家庭に戻しフォローアップするという流れだった(と思う)。
話題提供②
「児童養護施設職員の立場から」 向井理菜
【感想】ノンメンタライジングになっている要因について考え、その解決のために「メンタライジング忍者となる」というアイデアがよかった。
大学院卒業後すぐに就職した児童養護施設での4年間のことが語られた。この施設での心理士は生活ユニットには入らないが、心理職は心理療法だけでなく子どもの相談を適宜聞く立場にある。向井さんは、職員がときに「ノンメンタライジング」の状態になっていることを感じたが、職員が「本音と建て前」「若手とベテラン」の壁にはさまれて、本当の気持ちが言えていないのではないかと感じた。そこで「メンタライジング忍者」となり、話しやすい環境のなかで、・・・と感じているのではないか?を働きかけて、本当の気持ちについて言える関係を築いていった。それをしていくと、会議でも発言が出てくるようになった。メンタライズできてしまうと自分の傷つきにふれることにもなる。どうすれば職員のメンタライズを回復させながら、子どもの心を一緒に考えられる組織にしていけるのかを考え続けた軌跡について報告された。
注釈:「メンタライジング忍者」は、もともとのAMBITの用語では、どんな状況でも高いメンタライジング能力を維持し、他者の助けを得ることなく問題を解決する支援者の意味である。危機状況ではどんな人でもメンタライジング能力が低下し支援力が低下するという原則に反して私たちが抱きやすい幻想を西洋のイメージのもとで示している。一方、向井氏はより日本的なイメージで、影で四方の調整を行う者を意味してこの言葉を使っているように思われる(大橋良枝)。
話題提供③
吉村拓美「児童相談所のチーム内連携にAMBITがなにをもたらすか」
【感想】スーパーバイザーになるほどの経験を持っている吉村さんの苦悩を聞き、児相に「もっとしっかり仕事をしてほしい」と責める気持ちのあった自分が恥ずかしくなった。誰かを責めるのではなく、どう連携するのかが本当に大切だと感じた。
のっけのスライドが「児相は何をしてはんの?」の問いに対して、1.親も子供も、支援者も孤立を感じています。2.職員は増えています。・・がベテランは減っています。3.職員は責任を大きすぎると感じ、些細なしくじり報告も怖いと感じています でした。それまでの話題のなかで、メンタライズするには安心感が必要だというのに、児相を責め立てるような社会構造の中では、児相職員はよい仕事ができないと感じました。そんななかで吉村さんは、「折り合いをつけて情緒調整を」「個人感情なのか業務としての感情なのか境界線を整理して見直す」「話を聞いてくれる人にチャットを送り時間差でリアクションをもらう」ことで自分のバランスを保たれていました。「児相職員にもAMBITが役立つ」と感じておられるところから話が始まりました。「環状島:トラウマの地政学」(宮地尚子著)の図が示され、支援者が絶壁で苦しんでいるトラウマ当事者を「丸腰で助けに行く」という表現がありました。私はその図を初めて見ましたが、支援者がそんな思いをしておられるのだと実感しました。他のシンポジストからすれば児相職員は措置権もあり「重装備で現場にかけつけてくれる、それを待ってるんだ」と感じていましたが、児相職員は「丸腰」だと感じていると知っただけでも今回のシンポジウムは価値あるものと感じました。吉村さんは、そんな風に孤独に戦う個人に対して、組織が「基本装備・仲間の同行、ガイドブック、風速計・測量機、天気予報や傘」が提供できればと考えておられましたし、「メンタライジング」という装備も提供し、労い合える人間関係にしていきたいと語っておられました。児相職員がメンタライズできるよう、まわりがしっかりとサポートしないといけないのだと感じました。